2019年6月23日日曜日
「価格帯の低い普及製品も作ってくれませんか?」との問い合わせに向けた回答
当社のYouTubeのチャンネルを見てくださる方から、こんな問いかけを頂戴しました。
「ケンリックさん普及機も考えてくれませんか?」
この方の年の頃は分かりませんが、今の若者がスマホやポータブルプレーヤーばかりで音楽を聴いていて、真のオーディオの良さを知らぬまま育つ世の中に、この先高級オーディオの世界は存続していくのでしょうか?という憂いから沸いた投げかけでした。
私が回答した内容はそのままブログでもご紹介したいので、掲載することに致します。
お問い合わせありがとうございます。現在では信じがたいですが、かつては家電メーカーもこぞってオーディオ部門が活気づき、ラジオやテレビCMでもバンバンとオーディオ機器の情報が飛び交っていました。
若者は本格システムに憧れ、秋葉原の店頭や行きつけのオーディオショップで新製品を拝み、一杯のコーヒーだけで良い音を浴びようとジャズ喫茶に入り浸るような文化がありました。
いつかは自分の部屋に、あの音を実現するのだと夢見つつ、穴が空くほどカタログ資料を読み尽くし、やっとの思いで一生懸命に働いたお金で大枚叩いて憧れを実現する、そんな気概がみなぎっていた時代だからこそ、良いものが、何とか無理すれば買える価格帯にも迷ってしまうほど豊富に揃っていたものです。
やがて若者は現実主義で保守的に変化し、無駄を嫌って合理性を唱え、夢や願望を持たなくなりました。オーディオ文化も縮小して、家電メーカーは撤退、国産ブランドは数えるのみに、そしてお手軽な格安中華機器か、超ハイエンド機器に二分されるような構図に行き着きました。
質の良い普及機が成立するのは需要のマスが十分大きく、高級機との製造バランスを保てる土壌があればこそです。とりわけ、当社のようなガレージメーカーは、手広く器用な展開を試みればたちどころに質が疎かとなり空回りの末、淘汰されるのは目に見えています。
売れるか売れないかというビジネスベースの思想以前に、私自身が心から欲しいと感じ得る音を作らなければ、自分の会社の存在意義はないと考えています。従って、こだわりの果てのコストがそのまま価格に乗じてしまうことについては、申し訳ありませんが止む無しと捉えております。
ともするとブームが去ったオーディオ業界を嘆いた後ろ向きな意見と思われるかも知れませんが、変に競争が激化する中で無理をした製品作りをするよりも、じっくりと腰を据えて最高を目指せる今の温度の方が私には過ごしやすく、お客様にも落ち着いて良い音へと誘っていけると考えているのです。