2020年11月15日日曜日
デジタルアンプとデジタルチャンデバで4ウェイマルチJBLを理想音に追い込む
東京都のI様とは15年来のお付き合いですが最後に伺ったのは2008年で、それから久しくお目にかかっていませんでした。電話でお悩みの相談があり、聞けばガレージメーカー製作の4ウェイマルチJBLスピーカー(ミッドバスのみTAD)が全く良い音で鳴ってくれずに困っているとのこと。まずは診断のために音を聴かせてもらいに12年ぶりにシステムがある部屋を訪れました。以前のスピーカーは、JBL 4350Aと4331Aでしたから、だいぶ様子が変わりました。以下ブログに以前の状態が掲載されています。
http://blog.kenricksound.com/2008/06/ijbl-4350-asf4331-asf.html
新たなスピーカーの構成ユニットは次の通り。
JBL 2231A x 2
TAD TM-1201
JBL 2445J
JBL 2405
Westlake Audio(ウエストレイクオーディオ)を模したダブルウーファーの4Way5スピーカーシステムです。内蔵ネットワークは存在せず、Accuphase DF-55、デジタルチャンネルディバイダーで帯域分割した信号をRolandのモノラルクラスDアンプモジュールをペアでシャーシに組み込んだハンドメイドのデジタルステレオアンプ5台(ウーファー1発につき1chを割り当てられていた)でドライブしています。
早速聴かせていただいた音は・・・位相はバラバラ、各ユニットのつながりが悪く、音色そのものも濁っており、バランスは崩れていて、これは聴くに堪えないでしょうね、という状況そのものでした。
そこで、まずは全てのユニットのメンテナンスを実施することに。マグネットの再着磁、当社製の半永久耐性人工セーム革エッジへの交換とダンパー交換、硬質で音がピーキーなダイヤモンドエッジ・チタンダイアフラムの2445Jは、柔らかく良質な音のD162440、ロールエッジ・アルミダイアフラムへと換装、2405のアルミスロットイコライザーは、アルミ青銅削り出しの砲弾型イコライザーに変更、ダイアフラムも交換しました。
上記作業を終え、全てのユニットをお届けしたのが半年先になりましたが、いよいよ組み込みと、メインのチャンデバ調整の日です。今回新たに用意したルビジウム・マスタークロックジェネレーターや、アップサンプリングDDコンバータと、改造版 Chord Hugo DAコンバーター+リニア電源を新たに導入して、既存のCDプレーヤーからの再生音ながら、遥かに高水準な送り出し音源も整いました。PCオーディオは操作が苦手だとおっしゃるI様には無理なく扱っていただける仕組みです。
さあ、4wayマルチとして音の出来、不出来を圧倒的に左右するのが言わずもがなチャンデバの細かなパラメータ設定です。各ユニットのハイカット、ローカットに関わるクロスオーバー周波数、スロープカーブ、位相極性、そしてレベルと遅延。これは決して教科書通りのセッティングでは生き生きとした音を作り出すのは不可能です。ユニットそれぞれの個体が持つ性能と反応をここに読み取って、最も無理なく活かせるポイントを、耳と振幅しているコーン表面を振れた時の肌感覚だけで、直感的に追い込んでいくしかありません。デジタルチャンデバを取り入れながらも心地よく、自然で柔らかい音を引き出すために一つだけ明かせる私なりのコツは、急峻なスロープカーブがウリであるデジタルチャンデバだとしても、基本的に一次(-6dB/Oct)と二次(-12dB/Oct)しか使わないということです(ツィーターにのみ-18dB/Octを使うことはあります)。クロスオーバーさせるユニット同士のハイカットポイントとローカットポイントは同一値になりません。ほぼ大きく重なり合い、またスロープカーブも異なります。しかし、ユニットを通した音としての挙動と聴感上の最適値を常に優先します。
メンテナンスが完了した全てのスピーカーユニット組付けに始まりチャンデバの設定まで半日近くの時間をかけ、完成したものがこの動画の音です。安価なクラスDアンプモジュールとデジタルチャンデバのみでドライブしているとは思えないほど、柔らかく自然でまとまりがあり、なおかつ明瞭度も高いという、極めて理想的な鳴りをしています。マイクを使用した測定によるオートチューンやセオリーに則ってセットするようなアプローチでは、このバランスを得ることは非常に難しいと思います。「音が生きている、まるで天国のようだ。本当にありがとうございました。」というI様の言葉が、チューニングの成果を物語っていると感じました。