2021年2月14日日曜日
1年越しの壮大な特殊修理がついに完遂! JBL Project K2 S9500 お客様の声 北海道・加藤様 JBL 1400Nd ネオジムウーファー修理+マグネット新品製作
【お客様のコメント】
札幌市の加藤と申します。大学生の頃から、オーディオが好きで楽しんできました。長岡先生のスピーカーもたくさん自作しました。
30歳になったころに、雑誌で見たのがJBL K2 S9500でした。バーチカルツインのウーハーや、アクリルのホーンなど、音は聞いたことがありませんでしたが、どんなにすごいのだろうとあこがれていました。しかし、価格もハイエンドでしたので、いつかは欲しいと思いながらも手に入れることはあきらめていました。
当時持っていたスピーカーが、ダイヤトーンのDS-200HR。その数年後に、パイオニアのS5000twinのやはりバーチカルツインを仮想 S9500として使用していました。
初めての出会いから、30年。やっとK2 S9500を、ネットで某オーディオショップで見つけて、手に入れることができました。やっと夢がかなった、憧れのスピーカーが手に入った。ワクワクしながら、音を出しました。
聞いているうちに、右のチャンネルからガサガサという雑音が聞こえてきました。CDプレーヤーを疑い、修理に出してもダメ。アンプを交換してみてもダメ。結局、右の上のウーハーが原因で雑音が出てきているのが分かりました。
ウーハーを交換しなければならない。そう考えて、ネットで検索しましたが、30年前のパーツは全く見つけることができませんでした。
その中で知ったのが、ケンリックサウンドさんでした。
JBLのスピーカーを、レストアして蘇らせていると知って、相談の電話をさせていただきました。症状をお伝えして、ウーハー4本のエッジを交換していただくことになりました。
しかし、実際には、このウーハーはとんでもないことになっていて、ボイスコイル周りのハウジングやマグネットが、錆びだらけになっているということでした。しかも、4本ともです。
メールに写真を添付していただき、症状を説明していただきながらの、修理となりました。詳しく説明していただけたので、安心してお任せすることができました。
最終的には、マグネットの新規製作・新品交換!までしていただき、約1年間かかりましたが、立派に直していただきました。本当にありがとうございます。
普通ならば、ここまで悪くなっていれば、『無理、修理はできません』となっても、おかしくないです。しかし、ここまでやってくださったのは、本当のプロ意識と、高い技術をお持ちだからだと思います。
しかし、湿度が高い日本では、錆びによって同じような悩みをお持ちのオーナーさんもたくさんいらっしゃるのではないかと思います。機械式の腕時計は、定期的に分解清掃が必要と聞きますが、スピーカーも同じなのかもしれません。愛着を持ったモデルを、長く使うためにはケンリックサウンドさんのようなプロのショップがいてくれて心強いです。
届いてから早速、組み上げて音を出しました。
10.5畳の狭い部屋ですが、いい音でなってくれています。K2は、マッキントッシュのシステムで鳴らしています。
ピンポイントの定位と、リアルな音、そして部屋に広がっていく音、(JBL DD66000も所有しているのですが、音の広がりはこちらの方が良い、好みと思います。)バーチカルツインならではの良さにやっと浸ることができました。部屋の限界はありますが、大音量でもびくともしません。小音量でも、音がやせることなく楽しませてくれます。
まだまだ、セッティングなどこれから改善の余地はありますが、安心して音楽を楽しむことができます~♪これは、ずっと使っていきたいと思います。
ケンリックサウンド様、本当にありがとうございました。
【ケンリックサウンドからのコメント】
加藤様、この度はJBL Project K2 S9500(1400Ndネオジムマグネットウーファー)の修理依頼、誠にありがとうございました。ここ最近継続して問題が発生している、いわゆるネオジムマグネットコーティング劣化に伴う不良のため、最終的にはマグネットそのものを新規に作り直して組み替えるという大がかりな作業にまで発展いたしましたが、1年を掛けて無事に全てが完了し、やっと安心しました。
今回、加藤様から頂いた修理ご相談から、点検と現状の報告から修理方針のご提案までの1年を振り返りながら記述いたします。
【2020年2月17日】
(加藤様より電話で修理ご依頼)
プロにお任せ出来て、本当に助かりました。治せるものなのか、あきらめなければいけないものなのか、すっきりできると思います。でも、出来ればこれからずっと、クリアーに鳴ってほしいものです。ぜひぜひ、修理のほどよろしくお願いいたします。
【2020年2月25日】
スピーカーユニットを点検したところ、歪みなく鳴るものはウーファーユニット4本中の1本のみでした。エッジとダンパーを交換し、再芯出しを行うことによって異音は解消できます。人工セーム革エッジに交換することによって、よりしなやかにコーン紙が振幅できるようになるので、音質の向上も望めます。ウレタン素材の様に経年劣化する心配もありませんので、半永久的に使用することができます。特性を合わせるために4本同時の交換となります。コーン紙の縁が剥げているものがあるので、着色することによって目立たなくすることができます。端子部分がぐらついているものが2本あることと、センターキャップに一部接着不良がありましたので、これらはサービスで補修いたします。
【2020年4月22日】
エッジとダンパーを外してマグネットを確認しましたところ、内部メッキ面に大量の腐食が見られました。ギャップ内にも入り込んでいるため、クリーニングを進めております。
目に見える腐食以外にもギャップ内に相当な錆が発生しておりまして、除去を進めている状態です。コーン紙側は新しいダンパーを以前より適正な高さに接着しましたので、ギャップのクリーニングができ次第組み込みを行います。
【2020年5月28日】
現在やっと3台の修理が完了致しました。しかしながら、4台目のコーン紙Assyをマグネットフレームに組み込み芯出し行う作業で、どうしてもボイスコイルが当たってしまい正常な芯だしが出来ませんでした。原因を探るべく注意深く調べた結果、問題が判明しました。全般的に錆が多く発生していましたが、特にこの個体はマグネットとセンターヨークの間に多くの錆が発生しており、この錆びによりマグネット体積が膨張して、その上にある中心のヨークを持ち上げてしまい傾いた状態です。この影響でボイスコイルは入る隙間が偏心してコイルが当たっております。この状態は恐らくお預かりする前から起きていたかと思われます。音がビリついていた要因がここにあります。この状況を写真を添付致します。御確認下さい。
マグネット修理の方法は唯一下記になります。
【1】マグネットを脱磁して磁力を抜きます。
【2】センターヨークとマグネットの接着剤を剥がして、錆と古い接着剤を削って取り除きます。センターヨークとマグネットを平行とギャップが均等になるように接着します。
【3】新たにマグネットを着磁して磁力を回復させます。
センターヨークとアウターヨークのギャップが偏心
センターヨークが傾き飛び出している
マグネットとセンターヨークの間に発生している錆
内部の錆
【2020年7月2日】
マグネットの脱磁を行うためにマグネットAssyをアルミフレームから抜き出す必要がある事が分かり、抜き出しに難儀しました。上手く抜き出して脱磁、分解するとマグネット固定に用いられる接着剤が酷く劣化しており、且つマグネットの水平がずれておりました。古い接着剤を全て剥がして、水平が出る事を確認後に、ギャップのセンター出しを行い再接着を無事に完了しました。
残る作業は、再びマグネットを着磁する事です。実際に磁束密度を測定して、正しく磁力回復していることを確認したらフレームに圧入してフレーム組み込みが完成します。その後にコーン紙Assyを組み込めば完成となります。
ネオジムマグネットAssyを抜き出す
ネオジウムマグネット分解
マグネット接着面
マグネット接着面クリーニング
マグネット再接着
マグネットギャップクリアランス・センター出し
【2020年10月2日】
先日、1400Ndのマグネットに磁界を与えて磁力を元に戻す作業を進めておりました。ご報告致しました様に、特殊な磁気材料に対して正確に着磁する専用治具は設計・完成しました。その効果があり、着磁の磁力は強くなって随分復活しました、しかしながら本来戻るべき磁力は7,000ガウスほどであるところ、現状は3,600ガウスしか回復がしませんでした。
原因を調べると、旧来のマグネット(アルニコ、フェライト)は脱磁しても再度強力な磁場を加えると磁力が回復しますがこのJBL 1400Ndに使用されているネオジウムマグネットは強力であるが故に磁気特性が従来とは大きく異なり、規定の磁力には再び戻らない場合があることが判明しました。
今回の着磁治具と着磁装置で限界の磁界を与えてほぼ飽和点までは達しました。ところが、期待値まで引き上げることが困難だと判断しましたので、いよいよ新たなネオジウムマグネットを作製して現在のマグネットと入れ替える事に致したいと思います。現代のネオジウムマグネットはJBLが1400Ndを設計した1990年当時よりも特性が良いため、左右特性を揃える為に2本ペアで交換することに致します。
早速マグネットメーカーに問い合わせして、製作の打ち合わせを行います。
1400Nd専用設計の着磁用治具
着磁セット状態
着磁後の磁力不足状況
【2020年11月11日】
本日、やっとネオジウムマグネットが納入されました。現在は円盤形状のままですので、ボイスコイル冷却の為に設けられているエアベント=エアー通路確保のために、R11の切り欠き加工をこれから行います。ネオジウムマグネットは硬くてかつ脆いので、十分に注意して加工を進めます。この加工が無事に出来たらいよいよマグネットに接着組み込み、そして着磁作業に移ります。
新規製作完了したネオジムマグネット(高耐久ブラックエポキシコーティング済み)
【2021年1月14日】
1400Nd・ネオジウムマグネットの切り欠き加工がやっと出来ました。材料が思ったよりも硬く加工に難儀しましたが、何とか完成しました。早速マグネットを接着して芯出しを行い、明日いよいよ着磁作業を行う段取りです。着磁が成功すれば後の工程は速やかに出来る思います。年を越してしまいましたが、新しいマグネットで良い音を楽しんで頂ける様に頑張ります。もう暫くお待ちください。
【2021年1月21日】
作業の状況を報告致します。先日のネオジウムマグネットの着磁は上手くいって磁束密度は目標値をクリアーする強力な磁力線が得られました。早速のマグネットをアルミのフレームに組み込み、コーン紙Assyを組み込む作業を行いました。結果、1本は素晴らしい音が蘇りました。しかしながら、もう1本を組み込んで音だし確認をした結果、出音に歪が乗る問題が発覚して、先ほどまで原因を究明していたところです。どうやら私がマグネットを接着する際に塗布した接着剤の量が少し不足していたことに原因があるようです。接着剤のはみ出しを気にするあまり分量が足りなかった様です。大変申し訳ありませんが、来週に再度接着して再び着磁を行う予定です。お待たせしており恐れ入りますが、もう暫くお待ちください。
着磁後の測定1
着磁後の測定2
コーン紙Assy
【2021年1月26日】
大変長らくお待たせ致しました。本日全てのウーファーが完成しました。素晴らしい状態で、音も良いと思います。1本歪み音が発生していた原因はマグネットの接着不良ではなくて、内部のアルミのリングの浮きが原因でした。しっかり固定し直すと歪み音は直り、素晴らしい音が蘇りました。修理完了後の写真を添付します。
ギャップセンター調整後
JBL 1400Nd 完成背面側
JBL 1400Nd 完成正面側
マグネットの背面の写真で裏側に4個所穴埋めの痕跡が残っていますが、この穴はマグネットブロックをスピーカーフレームから抜き出す際に裏側から押し出す目的で開けた穴の跡です。この方法を使う以外にマグネットを抜き出せないため、どうかご了承ください。また正面のエッジが貼ってあるスピーカーフレーム内側に数カ所の塗料剥がれが起きておりますが、お預かりした時点から見受けられるものなので、敢えて修理は行ってありません。よろしくお願いします。
今回の修理に関しては、昨年の2月17日から既に1年間が経過してしまいましたが、修理をお受けした時は1400Ndにこのような問題があるとは全く気づかず、実際に作業を進めて行くと予想外の事が次から次と発生し、原因究明と対策部材の設計、試作、トライアルと、その繰り返しで大変長時間に渡りお待たせして申し訳ありませんでした。修理費用は当初の予想を遙かに超えるほどとなりましたが、正規メーカー他、どこでも修理不可能な中、ケンリックサウンドでの修理方法が確立して本当に良かったと思います。これもひとえに修理納期が長引く事に対して加藤様より快諾して頂いた結果でもあります。ご協力に改めて感謝致します。
到着して何かあれば必ず御連絡ください。今後、音楽を楽しんで頂けたら嬉しいです。
【2021年2月8日】
(加藤様より感想文とお礼としてルタオのチーズケーキをお送り頂く)
ルタオのチーズケーキが届きました。過分な物を頂いて感謝します。感想文には加藤様がS9500を入手されてからの経緯が記されており、修理の過程がよく分かりました。今回の1400Ndの修理をお受けしたときにはまさか、ネオジウムマグネットにこのような問題点があるとは全く認識しておらず、修理を進めるに従って従来のアルニコやフェライトとは全く異なる強力なネオジウムならではの磁力が抜けない、錆びてマグネットが痩せ細ってしまう、磁力が入らない、などなど幾多の困難な事項が次から次に発覚してしまいました。
しかしながら諦める訳にはいかず、私の48年間の技術力と経験でチャンレンジを繰り返してやっと目標を達成したときは1年の月日が経過していました。加藤様が結果に満足してくださり、本当に心から嬉しく思いました。これで同じような事例の修理方法が確立しましたので、逆に感謝の気持ちです。475Ndドライバーなどもネオジウムですが、今後も何かあれば御連絡ください。憧れのK2 S9500で音楽をお楽しみください。ありがとうございました。
ケンリックサウンド 技術担当・河内