2021年12月6日月曜日

お客様の声 東京都・今村様 新開発アルニコ・ベリリウムツイーター搭載オールアルニコ JBL 4311 のレビュー




ケンリックサウンド新設計・新開発のアルニコマグネット型ベリリウム合金ツイーター「KRS Be20Al」











【お客様のコメント】

先日は電源極性の揃え方等をご教示いただきありがとうございました。とりあえず現時点でのレビューを送付させていただきます。

レビューは比較的古い録音年代の音源を対象にしていますが、その点はどうかご容赦ください。また思いつくままに記述した長文ですからご不要と思われる部分は割愛いただいてもかまいません。この4311を私のような還暦過ぎの世代の音楽ファンが入手したら同じような傾向の選曲で聴いていくのかもしれないです。


1.オーバーホールをお願いした経緯とその内容について

今回オーバーホールしていただいた4311(ウーハとスコーカにアルニコマグネットを使用、ツイターのみフェライトマグネットを使用)は中古で入手したもので、従来所有していた4311B(すべてのユニットにフェライトマグネットを使用)と聞き比べてみるとアルニコマグネット特有の音の伸びの良さが際立っており、外見は傷だらけでしたが私の好きなジャズを再生した時の音はとても気に入っていました。

ところが外見ばかりでは無く音質についても経年の劣化が進み、アッテネータのガリがひどく大音量で雑音が出るとか、片側のウーハがビブラホン等の特定の音程のピークでビビるといった音そのものの不具合が顕著になり、修理していただこうと専門店を探していたところ、たまたま拙宅から徒歩圏内にケンリックサウンドさんの工房があり、思い切って飛び込みで徹底的なオーバーホールをお願いしたものです。

オーバーホールの項目を決める際に、ツイターだけがフェライトマグネットであることが最後の心残りであることをお話しすると、細井社長から「それではケンリックサウンドオリジナルのベリリウムツイターのマグネットをアルニコ化する特別仕様のものを開発しましょう」とご提案いただき、私の4311をこれを搭載した初号機としていただくことになりました。

オーバーホールの内容は概ね次のとおりです(ユーザの視点で記載しますので細部漏れや不正確な点があるかもしれません)。


【オーバーホールの内容】

・ウーハとスコーカの経年劣化した部分をリフレッシュしていただきました。特に片側のウーハのコーン紙の材質が異なることが判明したのでこれを左右で同じものに揃えていただいています。

・50年近く経年したネットワークコンデンサを高品質な高級品に交換していただきました。

・ガリが酷かったアッテネータ(4個)を新品に交換していただきました。

・傷んでいたキャビネットをリフレッシュ・再塗装していただき、まるで新品のようにしていただきました。また劣化が酷かったフロントパネルを交換していただきました。

・オリジナルでは品質が今1つだったスピーカ接続端子を高品質なものに交換していただきました。

・そして、唯一心残りだったフェライトマグネット使用のツイターを、新開発のアルニコマグネットのものに換装していただきました。


2.工期とその間の状況について

ツイターを新開発していただいたことも影響し、工期は約6か月かかりましたが、その間に何度か写真付きで工事の進み具合をご報告いただき、完成をとても楽しみに待つことができました。

なお、こういったものは待っている間が最も楽しいというのが私のこれまでの経験則でしたが、以下に記載するようにこれは見事に裏切られ、期待を大きく超えたさらなる驚きが待っていました。


3.納入いただいた4311の状態について

(1)音質
オールアルニコ化され拙宅に納入された4311の鳴りっぷりは、私の想像を遥かに超える恐ろしいほどの凄まじさで、これまでに様々な場所で接した他の高級あるいはビンテージスピーカと比較しても、ジャズを鳴らせばおそらくはこの世に存在する最高位に属するスピーカではないかとすら思わせるものでした。

正直なところ本当にその鳴りっぷりには心底ビックリしました。こんなに凄いスピーカが拙宅の音楽室に鎮座しているというのは未だに信じがたいような感覚です。特筆すべきなのは音の立ち上がりの過渡特性です。

高品位オーディオ装置の音の透明感を保ちながらスコーンと突き抜けて音が前に前に押し出されるこの鳴りっぷりは、まさにジャズを再生するために生まれてきたスピーカだと感じさせるものです。世の中のビンテージスピーカにはこのような音の立ち上がりをする名機が存在しますが、それをここまで音の透明感・情報量を保ったまま押し出してくるというのはちょっと他に例が無いのではと思います。

この4311に比肩しうる鳴りっぷりをしているスピーカは、金沢市にある知る人ぞしるジャズ喫茶「ぼくねん」さんのマルチアンプシステムで鳴っている怪物のような大型JBLだけしか思い浮かびません。3年前に金沢を観光旅行した際に寄って完全にノックアウトされたのですが、まさか私の4311がそれと同等の鳴りをするようになるとは夢を見ているような気分です。

「ぼくねん」さんでかけていただいたWynton KellyのKelly At Midniteはピアノの音がゴロゴロとした強い実在感で鳴っていてビックリしたのですが(他のシステムでこれを聞くとむしろピアノの音は痩せて細い印象なのに)、小さな4311でこのCDをかけても全く同等の傾向の音が出ています。それも拙宅では凝ったマルチアンプでは無く、MarantzのSM-7というトランジスタパワーアンプ1台だけで鳴らしているのです。

以下、これまでに聞いてみたリソース毎の感想を記載させていただきます。

ア. ジャズCD

私は気に入ったジャズのCDはリマスターされる毎に音質向上を期待して買い直してきたのですが、音質が悪いと感じて隅に追いやっていた初期のCDをこのスピーカで再生すると、余計な加工をしない生の音が聞こえてきて改めて初期CDの価値を見直しました。ケンリックサウンドさんのチューニング技術が初期CDから良い音を引き出しているのだと感じます。実例をいくつかご紹介しておきます。

・Concert(アランフェス協奏曲)/Jim Hall:1970年代中期の録音です。細井社長が拙宅にお見えになった時は数年前にリリースされたリマスター版をかけましたが、1985年頃のCD黎明期に入手した初期国内版CDをひっぱり出して聴いてみたらそちらの方が音の鮮度やバランスが優れていてすばらしい鳴り方でした。このCDは以前は音質が悪いと感じていたものです。

・Songs For Distinguished Lovers / Billy Holiday:1950年代晩年のコンボでの録音ですが、衰えたBilly Holidayの声にまだツヤが残っていてそれが少ししわがれた声と絶妙にブレンドしている様子が手に取るようにわかりました。これも1980年代中期に入手した輸入盤です。ドラムなどはもちろん、トランペット、テナーサックス、ピアノなどのソロも驚くほど透明性を保ちつつ躍動感ある押出しで鳴っています。

・枯葉/Cannonball Adderley:細井様が拙宅で空気録音された時にかけたものですが、あれも1985年頃の初期国内盤CDです。管楽器の音の突き抜け方が凄かったですね。

・Paris Session Vol.3/Clifford Brown:1953年にClifford Brownがパリに楽旅した時にバンドの親分のLionel Hamptonの目を盗んでレコーディングしたカルテット演奏をまとめたCDで、1980年代に入手したものです。少し痩せた印象のトランペットの音質だったのですが、4311で聞くと各楽器が独立して実在感があり、とても昔の録音とは思えないほどゴリッとした生々しい印象です。

・Overseas/Tommy Flanagan:1957年録音のモノラル版で名演ですが音質の評判は余り良くない録音です。DIWレーベルから出ている1980年代リリースの初期盤、1990年代リリースの盤、そして2019年の最新リマスター盤を比較試聴しましたが、1980年代初期盤の圧勝でした。このCDの音がこんなに躍動感と実在感があるとは全く意外に感じたほどでした。

・ケルンコンサート/キースジャレット:全編彼のソロピアノ即興演奏で展開される演奏ですが、1985年頃出た初期CD(LP2枚組時代には入っていた最後のアンコール曲が欠落している盤)と2000年頃に入手したリマスター盤(LP2枚組の全曲を収録している盤)とを聞き比べてみたところ、これまた初期盤の圧勝で、その情報量が多くバランスのとれた再生音はリマスター盤では全くその片鱗もないほどでした。初期盤は音が細いと思い込んでいた自分が恥ずかしいくらいで、ケルンの山にこだまするような荘厳で深い音色はおそらくはこのオールアルニコ4311しか奏でることができないのではと思われるほどです。

ノイズ除去やイコライジング等の音加工をしている最近のリマスター盤をかけたときの4311の鳴りっぷりも素晴らしいことは間違いないのですが、アナログマスターテープをデジタルに忠実に変換することだけに専念し余計な音加工をしていないCD黎明期の盤の方が音の情報量が多くそれを4311がきちんと再生しきっていることが4311での初期CDの音質が傑出している理由ではないかと思います。他のシステムで聞くと初期CDは音痩せして聞こえるのが不思議ですね。


イ. ジャズLPレコード

ジャズのアナログLPレコードについてはこれから本格的に聴いていこうと思っていますが、試しにElvin Jonesのバンドのレコード「Puttin’ It Together(Blue Note)」をお決まりのShureV15Type3-DUAL1019-MckintoshC28のイコライザで聞いてみたところ、CDの音質をさらに凌駕する押出し・実在感・迫力でした。アナログの実力を存分に味わえると思います。

アナログについてはカートリッジもいくつか所有しており奥が深いのでこれからいろいろとセッティングしつつ聴いていくのが楽しみです。(拙宅のレコードプレイヤーDual1019はAC電源は交流モータを駆動しているだけで音に関係する部分にはつながっていないので位相合わせはしていません)


ウ. クラシックCD

拙宅のシステムはクラシックの音質を追求したものでは無いのですが、ふと出来心で戦前の古い録音のCDを聴いてみたところ、さらなる驚きが待っていました。またこの4311が実はクラシック音楽も素晴らしい音で鳴らすことができることを認識しました。

これも実例をご紹介しておきます。

・カザルスのBach無伴奏チェロ組曲:1930年代の録音で、78回転SPからトランスファーした音源です。これまでの印象と比べるとベールが何枚も除去されたようにまるでカザルスがタイムマシンに乗って拙宅にやってきて目の前でチェロを弾いているような驚くべき臨場感と実在感で鳴っています。SPレコード特有のノイズまでもが音楽に合わせて踊っているような、そんなワクワクするような鳴りっぷりです。

・メンゲルベルクのチャイコフスキー交響曲「悲愴」:1938年の録音ですが、各楽器の分離感があり、弦の音のみずみずしさすら感じさせる鳴りっぷりで、録音年代が古いことによる帯域やノイズ云々を議論することが全く意味が無いのではないかと思わせるような別次元の鳴り方でした。ノイズまでもが音楽の一部に聞こえてしまうというのはカザルスのCDと共通した印象です。

・Bach French Suites Nos.3-6/Wolfgang Rubsam(NAXOS):比較的新しい1991年の録音で、名手リュプサムのピアノ独奏ですが、まさに目の前で演奏しているような音で時間を忘れて聞き入ってしまいます。オーバーホール以前だと少々デジタル臭さを感じたのですがオールアルニコ4311ではそのような感じは微塵もなく、情報量が多くなる方向に音質が変化しているようです。4311でクラシックを再生するのは正道ではないと思っていた私の考えが全く間違っていたことに気づきました。

・日本童謡集/遠藤幸子独唱(三谷礼二プロデュース):家内の師匠の遠藤幸子先生の1987年の録音ですが、一聴してすぐ彼女の歌だとわかる強烈な個性を持ちつつダイナミックレンジが広く細部をコントロール仕切ったその天才的なソプラノ歌唱はあの俵幸太郎が絶賛し世界中のレーベルから録音のオファーが来たほどでした(残念ながら実現はしなかったのですが)。久しぶりにこのCDを聴きましたが、全盛期の先生の歌唱が目の前に蘇りました。


エ.ポピュラー音楽CD

4311がレコーディングスタジオモニターとして活躍していた時代のPops音楽は、4311が得意とするところだと思いますが、オールアルニコ化した4311はオリジナル4311より各段に解像度が向上しており、下記のような青春時代の懐かしい音楽の素晴らしさを見直すほどでした。

・CBSソニーから出ていたS&Gの廉価版全アルバムフルセットがころがっていたので、その中から試しに「Bookend」をかけてみました。これもこれまでに聞いたことのないような高音質で、楽器の分離感、ギターの鳴り、ボーカルの音質なども絶品です。

・Pink Floydの「Dark Side Of The Moon」(1973年録音、1992年版CD)は様々な音の要素が入ったプログレロックの名盤ですが、どのようなシーンでもすべての音の情報量を引き出した鳴りっぷりで、大音量になっても音の分離がしっかりしていて感心しました。有名なこの録音をこのような素晴らしい音質で再生した例を他に知りません。

・America's Greatest Hits History(1970年代前半の録音):CDは比較的新しい盤と思います。名曲「A Horse With No Name」、「Ventura Highway」の鳴りっぷりには涙腺が緩みました。まるでライブハウスで目の前で演奏しているかのようです。

・Hotel California/Eagles:言わずと知れた70年代の名曲ですが、スピーカから出てくる音が音の塊にはならずスコーンと突き抜けて楽器、いやギターの弦の1本1本まで分離して聞こえる分解能はほんとうに凄いです。

・The Six Wives Of HenryⅧ/Rick Wakeman:私が高校生の頃(1975年頃)お手本にしていたピアノ、シンセサイザー、ハモンドオルガンを使った多重録音演奏ですが、これも全くベールがとれたような生々しい音質で鳴っています。私が古いアナログ電子楽器集めの泥沼に引き込まれたのは一重にこの演奏とEL&Pのせいでした・・・

・Turkus/EL&PとTorilogy/EL&P(1970年代初頭の録音):これも私を泥沼に引き込んだ70年代前半のプログレで、初期盤(1987年版)と最近のリマスター盤を所有していますが、これまでリマスター盤の方が良い音だと思っていたのがこの4311で聴くと初期盤の方が遥かに情報量が多く楽器の分離も素晴らしいです。

とにかく大音量ではこれまで音が塊として聞こえていたのが各楽器やボーカルの細かい部分まで分解して聴けるほど解像度が秀逸です。若かりし日にあこがれていた演奏が今になってこんなに素晴らしい音質でよみがえってくれるとはとても幸せなことです!


(2)納入いただいた4311の外観等について

木製キャビネットの状態は音質に影響するという説明を受け、キャビネットの補修・全塗装をお願いしたのですが、音質改善への影響は別にして、その新品と見間違えるほどの仕上がりの良さ、いや、おそらくは遠い昔に米国から出荷された時の新品時よりも塗装等の品質が良くなっているとさえ感じさせる仕上がりには、驚かされました。まさに超一流のプロの仕事ぶりです。


4.その他の感想等

私はジャズピアノをやるのですが、優れたジャズ演奏家にまず必要なのが音楽に対する耳の良さだということを痛感しています。スピーカー技術における耳の良さというのはジャズピアノ演奏でのそれとは中身は少し異なるのかもしれませんが、共通する要素も感じます。

そしてケンリックサウンドさんの技術の核心にあるのは細井社長の類稀な耳の良さだと思います。特に高品位オーディオの開発や修復に必要な音波の位相に対する細井社長の耳と感性は一般人の遠く及ばぬところであり、僅かな違いを瞬時に聞き分けながらスピーカーシステムを調整して素晴らしい音質のものに完成させていくその技術には技術者としての極めて優れた技量に加えて芸術家の領域を感じます。

私は学生時代にデジタル信号処理技術を専攻し音波の位相歪み(周波数に応じて位相がずれていく現象)の悪影響についてはよく承知しているつもりですが、世の中のオーディオ評論には周波数応答(位相では無く振幅のみ)だとか低ノイズといった指標はあってもこの位相歪みに対する言及がほとんど無いという現実にはいつも疑問を感じていました。

位相歪みがあるシステムは同時に耳に届くはずの音が周波数帯に応じて耳に届くタイミングが微妙に異なってしまうので音の印象がフワフワした不安定なものになりがちであり、ジャズの再生において必要な音の立ち上がり感・透明感・臨場感やどっしりと地に足がついた安定感、各楽器の音の分離・解像度といったものがスポイルされてしまいます。

瞬時に位相のずれを聞き分けることができる細井社長の耳と、それを解消するための優れた技術力がケンリックサウンドさんの生み出す製品や修復作業の源泉ではないかと感じた次第です。

細井社長とケンリックサウンドさんのエンジニアの皆さんのおかげで、手持ちの多くの初期CDが蘇り、その音色はまるで目の前で演奏しているかのような生々しいものです。

ジャズピアノを演奏する私は時々来日するプロの演奏を生で聴いて真のジャズ演奏のノリというものを実地に学んできました。

ところがオールアルニコ4311が再生するCD等の音楽は生の演奏の情報量をほとんど保持しているようで、超一流の演奏家がどのようなニュアンスのリズム感で演奏しているかがまるでライブハウスのかぶりつきで聴いている生演奏のようによく聞こえて来るのです。これは楽器演奏を勉強している者にとってほんとうに強力なツールとなるものです。

4311に続いてC61SovereignⅡ(S7システム)のオーバーホールもお願いすることになると思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

これから4311をじっくり聞き込んで行きますから工期は半年レベルでかまいません。もとは4311はサブシステムで、C61SovereignⅡがメインだったのですが、今やC61SovereignⅡはその大口径ウーハの恩恵による低音域の優位性以外は4311の足元にも及ばない状況に追いやられています(これはこれで結構気に入ってはいたのですが・・・)。

2WayのC61SovereignⅡですのでオールアルニコ4311のような超高解像な鳴りっぷりをとまでは言いませんが、なんとかそのおおらかで伸びやかな本来の性能を取り戻していただき、拙宅での居場所を確保してやってください。今の鳴り方ではC61SovereignⅡには4311の置き台の役目しか残りません。

【ケンリックサウンドからのコメント】

今村様、この度は、とても濃厚なレビューをありがとうございます。情熱的に、そして丁寧・詳細に、手に取るように素晴らしさが伝わってきました。実際に演奏もされる立場からの考察は説得力があると感じます。 あの日撮影させていただいた動画をこうしてYouTubeへアップして、見返してみても、実に鳥肌もんの音が出ているなと感じます。

リマスター版よりも、お蔵入りになりつつあったオリジナル版が日の目を見るようになって良かったですね。アンプをはじめとした他再生機器のポテンシャルもこれまで以上に、引き出せているのではないでしょうか。

JBL Sovereign II のレストア・チューンナップも追加でご用命いただき、誠にありがとうございました。こちらも、素晴らしい出音になるよう作業を進めてまいりますので、よろしくお願いいたします。