2021年2月13日土曜日

素晴らしい修理のおかげで、まだ使い続けられます! JBL Project K2 S5800 お客様の声 石川県・K様 JBL 435Al ネオジムドライバー修理



【お客様のコメント】

発売早々購入して使い続けてきたお気に入りのS5800が不調となったのが昨年秋。エアコンの音を気にせず音楽が聴ける季節の到来に喜び勇んでいたところ、音像がぐんと右に寄っているのに愕然。一転真っ青に。

非力な私にとっては、ちょっと移動するだけでも四苦八苦する重さ。元箱は一応手元に残しているが……コロナ禍で人手を頼りにくい中、二階部屋のこんな大物を箱詰めして送ることを考えると頭が痛い。大型スピーカーについては出張修理できるサービスがあったような、と思ってウェブを調べてみると、そもそもディスコンからだいぶ経っているため、修理可能対象のリストにすら載っていない。

いっそ買い換えようにも同様の構成の後継機がないので簡単に諦めるわけにもいかず、一縷の望みを抱いてハーマンに問い合わせてみると、JBLにも交換部品がないので対応できないと申し訳なさそうに担当さん。その症状だとネットワークではなくドライバーの故障ってことも十分あり得る、との有り難くない示唆もいただき、弱り果ててしまった。

たとえ診てくれるところがあったとして、故障しようのないデカい箱ごと送るのはバカバカしい。一念発起して自力分解を決意。いろいろ道具を手配して約二週間の試行錯誤の結果、ホーンアダプタごと中域ドライバーの435ALを取り外すことに成功し、これを計測して故障部位であると確定。

さらに古い世代のJBLをレストアしまくっているケンリックさんならどうか、ここでだめならどこでも無理だろう。と考えて相談のうえドライバーを送ったところ、最近多いというネオジム磁石のトラブルで修理はなかなか厄介そうな感じだが、不可能とは言われなかったのでひとまず胸をなでおろす。

その後11月初旬には無事修理方法が確立して修理スケジュールが案内されたまでは良いのですが……ここでコロナの馬鹿野郎の妨害により年明けまでお預けを食らうことになってしまったのには、やむを得ないとはいえさすがにがっくり。しかしながら、1月には必ず素晴らしい状態にして送ってくれるという、この時の頼もしい約束はしっかり守っていただけました。

ついに返ってきた435ALは健全側と遜色ない音量が出るように回復しており、センター定位もきちんと決まるように。幾多の苦難を潜り抜けてきたであろうマグネットの色調の変化が、修理担当者さんのはらった労力を物語っているようでした。一時は諦めるしかないかと思われたS5800だが、これにて完全復活……ではすみませんね。

鳴らし込みがてら片端から音源を聞き直していると、比較的小音量時にも緻密で生々しい音色が出ていることに気づきました。ことさら情報量を誇るような機種という印象は無かったのですが……DAC入れ替えやチャンネルディバイダー再調整の影響があるにせよ、出口であるスピーカーの性能以上の音が出るはずがない。

健全側のドライバーも含めて調整済みとメールにあったのを思い出し、なるほどこういう事かと納得しきり。つまりはこれが435ALの真の性能。不自由な状況の中で粘り強く挑戦して、期待を上回る見事な結果を出してくれた河内さんのプロの技に感謝!

しかし、製造元にはもう少し過去製品への愛着を持ってほしいところですね……スピーカーはいわば楽器であって、日進月歩で陳腐化するデジタル機器とはわけが違うのだから。
幸い、信頼できる技術を備えたお店と縁ができたことで、元通り以上に気持ちよく音楽が聴けるようになったばかりか、後々の故障を恐れずにお気に入りスピーカーを使い続けられるようになったわけですから、これはもう大満足です。

このたびは本当にありがとうございました!


【ケンリックサウンドからのコメント】

無事に鳴っているようでひとまずは安心しました。K様に喜んで頂く事を目指して色々と苦難を乗り越えて本当に良かったと思います。

K様より初めに頂いたご相談は以下の内容でした。

JBL K2 S5800で音楽を聴こうとしたところ、音源定位が無茶苦茶で、片チャンネルの中域が異常に小さな音になっていました。マイクで計測してみると(測り方が雑なのでいろいろ不正確と思いますが)、不調側は4000Hz付近からだだ下がり。当初はネットワークの異常も疑いましたが、分解してコンプレッションドライバ単体の特性を確認してみると御覧の通りであり、435ALそのものの故障と判断しました。なんとか修理できないものでしょうか?

お預かりして点検を行うと、ご指摘の様に435Alドライバー片側の音量が極端に小さな音量で且つ低域が出ておりませんでした。 ダイヤフラムを外すと予想通りネオジウムマグネットの錆びた粉が磁界に引き寄せられてギャップ内部で硬く詰っていました。幸いにボイスコイルは無事でした。(固着状態ですと擦れて絶縁表皮が露出してレアショートを引き起こしたり、コイル焼損を引き起こすこともあります)


端子バネ破損


吸音スポンジ劣化


ギャップ内にマグネットの磁性粉が詰まる

以下、点検と現状の報告から修理方針のご提案まで振り返りながら記述いたします。

【音量が小さい側】
分解前に音の確認をしました。ご指摘の様に低音域は全く出ず、中音域が僅かに鳴るのみで高域はほとんど鳴らずでした。分解してギャップを確認すると、案の定、内部にネオジウムマグネットの錆びた粉がびっしりと硬く詰っていました。従ってボイスコイルがほとんど動けずに前記の様な現象になっています。この外形が黒いマグネットは外側は錆びていませんが、ギャップ内部が錆びて強力な磁力を帯びた粉のため、綺麗に取り除く為には一度磁力抜く脱磁を行い、分解が必須です。再度マグネットを組み込む際に錆止め処理を行います。バックチャンバー内部のスポンジが劣化して剥がれておりますので、新品交換致します。

【音量が正常な側】
分解前の音確認ですが、ほぼ全域に渡り音が出ていました。しかし分解して問題点が発覚します。まずダイヤフラムのメス側端子が折れ曲がっております。恐らく製造時に組み込みした時のミスだと思われます。当社保有の社外品ダイアフラムから端子部品を移植して補修が可能です。またバックチャンバー内のスポンジが1枚しか装填してされておらず、劣化も伴っておりましたので改めて2枚を新品交換します。 肝心のマグネット錆は程度がまだ進行しておりませんが、やがて同じように錆が発生する事は予想ができますので、同様に脱磁して対策を致します。

いずれにしましても、現在修理中の他お客様からお預かりしている同一ユニットには同様の現象が生じており、マグネットの脱磁と再度組み込み後の再着磁を経て、磁力を元に戻す作業が必須となっております。このネオジウム磁石の磁力は従来のアルニコやフェライトマグネットとは異なり、その強力な磁力を抜く工程と、再び磁力を元に戻す再着磁の工程に重要な追加治具と新たな工夫が必要です。設備の見直しで手法が確立するまで、お見積もりを少々お待ちいただきます。着磁の実験を行うまで暫くお待ちください。

その後、先行していましたJBL435Beと435ALの着磁作業がやっと成功しました。何ヶ月も試行錯誤の連続で大変お待たせしましたが、やっと一連の修理方法が確立しました。

K様のユニットも同様な状況でしたので、修理内容のご説明を致します。症状の出ていたユニットのネオジウムマグネットは内外共に錆びており 先日脱磁を行い分解してあります。


JBL 435Al マグネット脱磁の様子

剥がれた跡を見ると接着剤は綺麗に残りマグネット表面の錆の為に剥離した様子が伺えます。古い接着剤は綺麗に取り除き、マグネットの防錆処理を行います。その後、ギャップに付着した古い磁性流体を取り除いてから、ギャップクリアランスの芯だしを行いながら耐熱性接着剤で固定します。十分接着強度を確保して特殊な着磁治具を用いていよいよ着磁を行い、ギャップの磁力を測定器でチェックしながら不足の場合には何度もやり直しを致します。ギャップをクリーニングしてからダイヤフラムを組み込みますが、その際に磁性流体を適量封入します。

一方反対側のマグネットは現時点ではギャップ内外ともに錆はなくて、直ぐに分解する事は 必要ないと判断しています。但し、ダイヤフラムとギャップはクリーニングして磁性流体を適量封入します。不良端子の修理は完了させております。


修理済みの不良端子

バックチャンバーのスポンジは劣化しておりますが、正常なチャンネル側はスポンジの高さが不足しておりました。両方とも新品のスポンジに交換します。

マグネットの着磁も無事に完了して正常な磁力値に戻りました。最終的に音を確認しながらダイヤフラムのセンターを微調整してベストな位置に合わせてあります。バックカバーのネジにネジロックを塗布してありますので、緩めないようにお願いします。この度の修理は予想外の事が発生し大変長時間にわたりお待たせして申し訳ありませんでした。その後も、435Alの修理依頼が続けて舞い込んでおり、今やメーカーをはじめ、どこも修理不可能な中、当社にて修理方法が確立でき出来て良かったと、ご協力に感謝しております。K様、ありがとうございました。